大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 平成10年(行ウ)28号 判決

原告 石津勝男

被告 佐原税務署長

清水健徳

右指定代理人 黒澤基弘

同 笹崎好一郎

同 円山了

同 富永鐘治

同 清恒夫

同 荒川政明

同 鎌田美佐子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成九年三月六日付けで原告に対し行った平成五年分及び平成六年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(ただし、いずれも平成一〇年三月一八日付け東裁(所)平九第一三四号審査裁決によって維持された後のもの)並びに平成七年分の所得税の更正処分を、いずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が平成九年三月六日付けで原告に対し行った所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(裁決で維持された部分)について、原告がその違法性(本件においては、推計課税の必要性及び合理性とも存在しない等)を主張して、右各処分の取消しを求めている事案である。

なお、立証は、記録中の証拠等関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

一  争いのない事実等

1  原告は、昭和五一年から、その住所地において、「ファミリーショップ鹿島屋」の屋号で、食料品の小売業を営む個人事業主である。

2  原告は、平成五年分ないし平成七年分(以下、「本件各係争年分」という。)の各申告所得税の納付について、別表一ないし三の「確定申告」欄記載のとおり、確定申告をした。

3  これに対し、被告は、平成九年三月六日付けで、原告に対し、青色申告承認取消処分をするとともに、別紙一ないし三の「更正・賦課決定」欄記載の額をもって、本件各係争年分の各所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び平成五、六年分の各過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各過少申告加算税賦課決定処分」という。また、「本件各更正処分」と「本件各過少申告加算税賦課決定処分」とを併せて「本件課税処分」という。)をした。

4  原告は、平成九年五月六日、異議審理庁に対し、前記青色申告承認取消処分及び本件課税処分について異議申立てをしたが、同庁は、同年七月二三日付けで、いずれも請求を棄却する旨の決定をした。

5  原告は、平成九年八月六日、国税不服審判所長に対し、前記青色申告承認取消処分及び本件課税処分について審査請求をした。

同所長は、平成一〇年三月一八日付けで、次の内容の裁決(東裁(所)平九第一三四号審査裁決。以下、「本件裁決」という。)をした。

(1)  青色申告承認の取消処分に対する審査請求を棄却する。

(2)  平成五年分及び平成六年分の各更正処分及び各賦課決定処分は、いずれもその一部を別表一及び二の「審査裁決」欄記載のとおり取り消す。

(3)  平成七年分の更正処分に対する審査請求は、棄却する。

二  当事者の主張

1  原告の主張

(一) 本件に関し行われた被告側の調査(以下、「本件調査」という。)は違法である。

被告は、原告の営業とは全く関係のない原告の長男名義の佐原信用金庫潮来支店の取引控えを入手し、また、被告の仲野慎一調査官(以下、「仲野係官」という。)は、原告の勤務先に税務署を名乗って電話をかけ、原告の信用を失墜させた。さらに、仲野係官は、税務調査に当たって、原告の取引先に迷惑をかけるとともに、原告の妻石津京子(以下、「京子」という。)の信頼を裏切った。これらの行為は、法の許す範囲を逸脱し、原告の人権を侵害する行為である。

(二) 本件では推計課税の必要性はなかった。

原告は、青色申告会に入会して以来、毎日の取引内容を、佐原税務署の指導に従って帳簿に正しく記載してきた。その記帳の仕方が法律の規定に合致していないとすれば、その責任は佐原税務署にある。被告は、原告の帳簿が、一万円以下の端数が記載されていない等主張するが、その誤記脱漏は、原告の申告売上額と比較すれば、些少であって、問題とならない。

また、原告は、正確に記載された帳簿を、本件税務調査の際に、仲野係官に対してすべて提示し、調査には十分協力した。

(三) 本件でなされた推計には合理性がない。

(1)  被告の行った推計では、原告の営業上必要となる光熱費・水道費・人件費・減価償却費等の経費が計上されていない。被告は、反面調査によって、原告の銀行取引控えを入手しており、右経費の内容を知りうる立場にあった。したがって、被告は、知りうる経費を見過ごしあるいは黙殺して、推計をしているのである。

(2)  本件推計課税に当たり、比較のために抽出された同業者の営業収入には約四倍の偏差がある。また、被告は、広く佐原市内から同業者を抽出しているが、原告の営業地である新島地区における平成六年度の小売業一人当たりの販売額の平均は、八五一万円であり、これは、佐原市内の同販売額平均である一五六三万円の約半分であって、最も売れている東大戸地区の同平均額の三分の一にも満たない。このような地域差が存在するにもかかわらず、佐原市内の平均による比率を原告に当てはめることには合理性がない。

(3)  被告は、本件各係争年分の売上金額を合計六二〇〇万円と推計しているが、原告は、本件各係争年度において被告の推計を上回る合計八〇〇〇万円を申告している。したがって、被告の主張は、すべての根拠を失っている。

(四) よって、原告は、本件課税処分のうち、本件裁決によって維持された部分の取消しを求める。

2  被告の主張

(一) 本件調査の相当性について

被告は、原告が提出した本件各係争年分の各所得税確定申告書の内容を検討したところ、(1) 事業所得の金額が各年分とも損失であったこと、(2) 平成五年分及び平成六年分の確定申告書には給与所得の申告があるにもかかわらず、平成七年分の確定申告書には給与所得の申告がないこと、(3) 平成五年分及び平成六年分の決算書の「雑収入」欄にはいずれも金額の記載があるにもかかわらず、平成七年分の決算書の「雑収入」欄には金額の記載がないこと等から、原告の申告内容が適正であるか否かについて調査を行う必要があると認め、これを開始した。被告側は、原告の取引先や銀行などに対して、原告の事業に関する調査(いわゆる反面調査)を行い、また、仲野係官による臨場調査を実施したが、いずれの調査も、法律上税務職員に与えられた合理的裁量の範囲内で行われた適正なものである。

(二) 本件推計課税の必要性について

(1)  仲野係官は、寺本泰弘国税調査官(以下、「寺本係官」という。)とともに、平成八年九月二〇日、原告宅において臨場調査を行った。この際の原告の説明は、

ア 備付帳簿は、現金出納帳のみである。

イ 現金の管理は、レジスターで行っており、毎夜、京子がレジスター内の現金額からつり銭用の金額(三万円前後)を差し引いた金額を現金出納帳に記帳している。レジスターで一日ごとの集計をレジペーパーに打ち出しているが、当該レジペーパーは、その都度破棄し、保存していない。

ウ 仕入代金及び経費の支出に当たっては、レジスターの中の現金から支払うこともある。

エ 領収書や請求書などのいわゆる原始資料は申告後不要と判断し廃棄した。

というものであった。

そして、仲野係官らが帳簿書類等の提示を求めたところ、原告は、右同日(平成八年九月二〇日)の調査においては平成五年一月分及び平成八年分の現金出納帳を提示したものの、右同日以外の四回の臨場調査では、帳簿書類等を提示しようとしなかった。

(2)  仲野係官らが前記現金出納帳を調査したところ、

ア 前記各出納帳には、預貯金の入出金の記載がなく、日々の現金残高も一部しか記帳されておらず、しかも、売上金額がすべて端数のないラウンド数字で記帳されている。

イ 平成五年一月分の現金出納帳記載の売上金額(二〇四万円)が決算書記載額(一八八万円)と相違している。

という疑問点が認められ、また、前記(1) 記載の各事情に照らしても、原告が確定申告した事業所得の金額には問題があると認められた。このため、仲野係官らは、本件各係争年分の帳簿書類等を提示するよう繰り返し原告に要請したが、原告は提示せず、調査に協力しなかった。

(3)  以上の事情から、仲野係官は、原告が確定申告した事業所得金額には問題があるものの、その所得金額を実額で把握することは不可能であると判断したものであり、本件において、推計課税の必要性が存したことは明らかである。

(三) 本件推計課税の合理性について

(1)  本件推計課税の手法は、被告が反面調査で把握し得た原告の仕入金額を基に、原告と業種が同じであり、その事業規模も類似している事業者(いわゆる「比準同業者」)の申告状況等を参考にして行ったものである。

すなわち、原告の本件各係争年分の仕入金額の合計額を各係争年分の売上原価の額とみなし、右売上原価の額を後記(2) 記載の条件及び手法により抽出された比準同業者の平均売上原価率で除して売上金額を算出し、右売上金額に比準同業者の平均特前所得率を乗じて本件各係争年分の事業所得の金額を算出した。

(2)  比準同業者の抽出条件は、以下のとおりである。

ア 佐原税務署管内に所得税の納税地及び事業所を有する個人事業者であること。

イ 食料品小売業を営む者であること。

ウ 所得税の申告を青色申告によっている者のうち青色事業専従者が一名の者であること。

エ 本件各係争年分ごとに、売上原価の額が次の範囲内にある者であること。

<1> 平成五年分については、八七八万四三〇〇円以上三五一三万七一九八円以下。

<2> 平成六年分については、八五三万一三一五円以上三四一二万五二六〇円以下。

<3> 平成七年分については、七九八万三六八八円以上三一九三万四七五二円以下。

オ 一年を通じて前記ア記載の事業を継続して営んでいる者であること。

カ たばこの販売をしていない者であること。

キ 次の<1>及び<2>のいずれにも該当しない者であること。

<1> 災害等により経営状態が異常であると認められる者

<2> 更正又は決定処分がされている者のうち次のa又はbに該当する者

a 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していないもの

b 当該処分に対して不服申立てがなされ、又は訴えが提起され、現在審理中であるもの

この条件に基づく抽出は、東京国税局長が、被告に対し、右条件に合致する者の報告を求める方法で実施されており、抽出過程に被告の恣意が介在する余地はない。

(四) 本件各更正処分及び本件各過少申告加算税賦課決定処分の適法性

(1)  以上により算出された原告の総所得金額は、平成五年分が三〇八万二五〇七円、平成六年分が二九三万八二二一円、平成七年分が三二六万二三一二円であるところ、これらの金額は、本件各更正処分において認定された総所得金額(平成五年分二九一万四二五五円、平成六年分二六六万七三九一円、平成七年分三〇四万〇〇二七円。平成五年分及び平成六年分については、本件裁決によって維持された部分。以下同じ。)をいずれも上回る。よって、本件各更正処分に違法はない。

(2)  本件において、原告が本件各係争年分にかかる納付すべき税額をいずれも過少に申告していたことにつき、国税通則法(以下、「通則法」という。)六五条四項に規定する正当な理由は存しない。被告は、本件各更正処分により新たに納付すべきこととなった本件各係争年分の税額(通則法一一八条三項により一万円未満の金額を切り捨てたもの。以下同じ。)を基礎に、同法六五条一項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定を行ったものであるから、本件各過少申告加算税賦課決定処分(平成五年分及び平成六年分については本件裁決で維持された部分。以下同じ。)はいずれも適法である。

第三当裁判所の判断

一  認定事実

証拠(甲第一号証の1ないし3、第二号証の1・2、第三号証の1ないし3、第四号証ないし第七号証、第九号証、乙第一号証ないし第四号証、第五号証の1ないし3、第六、七号証、証人仲野慎一の証人尋問結果)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

1  被告は、原告から提出された本件各係争年分の各確定申告書の内容を検討したところ、(一)事業所得の金額が各年分とも損失であること、(二)平成五年分及び平成六年分の確定申告書には給与所得の申告があるにもかかわらず、平成七年分の確定申告書には給与所得の申告がないこと、(三)平成五年分及び平成六年分の決算書の「雑収入」欄にはいずれも金額の記載があるにもかかわらず、平成七年分の決算書の「雑収入」欄には金額の記載がないことなどの疑問点が認められた(なお、「平成7年分所得税青色申告決算書」(甲第七号証)の「月別売上(収入)金額及び仕入金額」表中の「雑収入」欄には、「413389(円)」との記載があるが、同号証によると、同記載の横に「9月18日記」との記載があることに加え、売上金額欄の合計金額との関係に照らすと、右「雑収入」欄の数字は、本件の確定申告後に記載されたものと推認することができる。)。このため、被告は、原告の申告内容が適正であるか否かについて調査を行う必要があると認め、仲野係官がその担当となった。

2(一)  仲野係官は、平成八年九月二〇日、寺本係官とともに、原告宅に臨場したところ、原告及び京子が在宅していた。仲野係官らは、原告に対し、身分証明書及び質問検査章を提示し、原告の本件各係争年分の所得税の調査のため訪問した旨告げて、調査への協力を要請した。これに対し、原告及び京子は、事業概況等について次のとおり説明した。

ア 原告は、平成七年から、いわゆる人材派遣会社である「ワコー」に勤務しているが、同社から平成七年分の源泉徴収票の交付を受けなかったため、同年分の確定申告において同社からの給与所得を申告しなかった。

イ 現金の管理はレジスターで行っており、当該レジスターにつり銭として用意するのは三万円前後で、毎夜、京子がレジスターの中の現金を数え、右つり銭用の金額(三万円前後)を差し引いた金額を現金出納帳に記帳している。レジスターでその日一日の集計をレジペーパーで打ち出しているが、その打ち出したレジペーパーは、その都度破棄し、保存していない。

ウ 備付帳簿は、現金出納帳だけで、京子が記帳している。

エ 仕入代金及び経費の支出に当たっては、レジスターの中の現金から支払うこともある。

(二)  仲野係官らは、原告に対し、平成八年分の帳簿書類の提示を求めたところ、原告は、備付帳簿は現金出納帳だけであるとして当該出納帳を提示した。当該出納帳には、<1>通常なら記帳される預貯金の入出金の記載がないこと(なお、前掲各証拠によると、原告は、店舗売上げの他に保育所に対する売上げも有しており、これは千葉興業銀行佐原支店の原告名義口座に振り込まれていることが認められる。)、<2>現金残高もところどころにしか記載されていないこと、<3>売上金額はすべて万円又は千円未満の金額の記載のない、いわゆるラウンド数字で記帳されていることなどの問題点が認められた。このため仲野係官が原告に対し右<3>の点について質問したところ、原告は「端数は入れていない。端数まではやっていられない。」と述べた。また、仲野係官が、原告の手元に存した平成八年分の経費の領収書と平成八年分の現金出納帳とを突き合わせたところ、右領収書の金額の一〇〇円未満を切り捨てた数字が記帳されていることが確認された。

(三)  仲野係官らが、本件各係争年分の帳簿書類の提示を求めたところ、原告は、平成八年分と同様現金出納帳しか備付帳簿はないと述べ、同係官らに本件各係争年分の現金出納帳(以下、「本件帳簿」という。)を提示した。本件帳簿には、前記(二)記載と同様の問題点が認められたことに加えて、その項目事項には、「稲富」「石井」「M」「国民健康保険」「市県民税」「近火見舞い」「国民年金」「新聞代」など、仕入れや経費に当たるか否か判断し難いものも含まれていた。仲野係官らが、原告に対し、領収書等原始記録の提示を求めたところ、原告はこれを渋ったものの、最終的に保育所に対する請求書(控)及び千葉興業銀行佐原支店の原告名義の預金通帳を提示し、右以外の領収書等の原始記録については確定申告終了後に必要がないとして破棄した旨述べた。

(四)  仲野係官らが、平成五年分の現金出納帳に記載されている一月の売上金額を集計したところ、その合計額は二〇四万円であり、同年分の決算書に記載された一月分の売上金額である一八八万円と齟齬が認められた。これについて仲野係官らが質問したところ、京子が「一回レジで集計するだけだから。」と答えた。このため、仲野係官らが本件帳簿等を預かりたい旨原告に伝えたところ、原告は、「調査は今日で終わりだ。うちの申告は正しい。」などと述べ、仲野係官らの協力要請にもかかわらず、京子に対して「今度、来ても入れるな。」などと言い、同係官らの右協力要請には全く応じようとはしなかった。

(五)  その後、仲野係官は、原告宅に何度か電話をし、いずれも応対した京子に対し、臨場調査の日時等について原告と打ち合せの上連絡が欲しい旨伝えたが、いずれの場合も、原告らからの連絡はなかった。

(六)  仲野係官は、平成八年一〇月二二日、事前に京子に対し臨場調査に赴く旨伝えた上で、原告宅に臨場したが、原告は不在であった。仲野係官は、京子に対し、本件帳簿を再度提示するよう要請したが、同人は、これに応じなかった。仲野係官は、京子に対し、調査を早期に終了させるため、分かるところから調査を進める旨原告に伝えるよう依頼した。しかし、その後も原告らは、仲野係官らに対し、調査に協力する態度は見せなかった。

(七)  その後、仲野係官は、原告及び京子から聴取した取引金融機関に対し、取引照会(京子名義及び原告の息子名義の取引の照会も含む。)を実施するとともに、本件帳簿から把握した原告の仕入先に対し、反面調査(取引金額等の照会)を実施した。また、原告の給与受給額を調査するため、原告の勤務先である「ワコー」に対し、原告への給与支払額について照会文書を発送した。

(八)  被告は、これまでの調査結果にかんがみると、原告の本件各係争年分の所得金額を推計により算定せざるを得ないものと判断し、争いのない事実等3記載のとおりの本件課税処分をした。その後争いのない事実等4及び5の経過を巡り、本件訴訟に至った。

(九)  被告は、後記(1) ないし(3) 記載のとおり、反面調査によって知り得た原告の仕入金額の合計額を同業者の平均売上原価率で除し、これを原告の売上金額とし、その売上金額に同業者の平均特前所得率を乗じたものを特前所得金額(売上金額から売上原価の額及び経費の額を控除して算定した青色申告特典控除前の所得金額をいう。)とし、その特前所得金額から事業専従者控除額を控除したものを、原告の事業所得金額として算出した。

(1)  平成五年分

ア 事業所得の金額           一二四万八三〇七円

<1> 売上原価の額         一七五六万八五九九円

<2> 同業者の平均売上原価率      〇・七九五一

<3> 売上金額(<1>÷<2>)  二二〇九万六〇八七円

<4> 同業者の平均特前所得率      〇・〇九二七

<5> 特前所得金額(<3>×<4>) 二〇四万八三〇七円

<6> 事業専従者控除額             八〇万円

(京子に係る所得税法五七条三項(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの)所定の事業専従者控除額)

<7> 事業所得金額(<5>-<6>) 一二四万八三〇七円

イ 給与所得の金額           一八三万四二〇〇円

ウ 総所得金額             三〇八万二五〇七円

(2)  平成六年分

ア 事業所得の金額           一五六万三二二一円

<1> 売上原価の額         一七〇六万二六三〇円

<2> 同業者の平均売上原価率      〇・七八四一

<3> 売上金額(<1>÷<2>)  二一七六万〇七八三円

<4> 同業者の平均特前所得率      〇・一〇八六

<5> 特前所得金額(<3>×<4>) 二三六万三二二一円

<6> 事業専従者控除額 八〇万円

(京子に係る所得税法五七条三項(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの)所定の事業専従者控除額)

<7> 事業所得金額(<5>-<6>) 一五六万三二二一円

イ 給与所得の金額           一三七万五〇〇〇円

ウ 総所得金額             二九三万八二二一円

(3)  平成七年分

ア 事業所得の金額           一一六万〇三一二円

<1> 売上原価の額         一五九六万七三七六円

<2> 同業者の平均売上原価率      〇・七八五六

<3> 売上金額(<1>÷<2>)  二〇三二万五〇七一円

<4> 同業者の平均特前所得率      〇・〇九九四

<5> 特前所得金額(<3>×<4>) 二〇二万〇三一二円

<6> 事業専従者控除額             八六万円

(京子に係る所得税法五七条三項所定の事業専従者控除額)

<7> 事業所得金額(<5>-<6>) 一一六万〇三一二円

イ 給与所得の金額           二一〇万二〇〇〇円

ウ 総所得金額             三二六万二三一二円

(一〇)  被告が用いた「同業者の平均売上原価率」及び「同業者の平均特前所得率」の算出方法は、以下のとおりである。

(1)  東京国税局長は、被告に対し、佐原税務署管内において、原告と同様、所得税の納税地及び事業所を有する個人事業者のうち、本件各係争年分ごとに、次のアないしカの要件のすべてに該当する者(いわゆる「比準同業者」という。)の報告を求めた。

ア 食料品小売業を営む者であること。

イ 所得税の申告を青色申告によっている者のうち青色事業専従者が一名の者であること。

ウ 本件各係争年分ごとに、売上原価の額が次の範囲内にある者であること。

<1> 平成五年分については、八七八万四三〇〇円以上三五一三万七一九八円以下。

<2> 平成六年分については、八五三万一三一五円以上三四一二万五二六〇円以下。

<3> 平成七年分については、七九八万三六八八円以上三一九三万四七五二円以下。

エ 一年を通じて前記アの事業を継続して営んでいる者であること。

オ たばこの販売をしていない者であること。

カ 次の<1>及び<2>のいずれにも該当しない者であること。

<1> 災害等により経営状態が異常であると認められる者

<2> 更正又は決定処分がされている者のうち次のa又はbに該当する者

a 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していないもの

b 当該処分に対して不服申立てがなされ、又は訴えが提起され、現在審理中であるもの

(2)  東京国税局長は、被告に対し、本件各係争年分ごとに、右のようにして抽出された比準同業者の売上金額に占める売上原価の額の割合の平均値(いわゆる「平均売上原価率」)の算定を求めた(別表四ないし六参照)。

(3)  東京国税局長は、被告に対し、右のようにして抽出された比準同業者の売上金額に占める特前所得金額の割合の平均値(いわゆる「平均特前所得率」)の算定を求めた(別表四ないし六参照。)。

二  判断

1  本件調査の相当性について

(一) 所得税法二三四条一項は、所得税の公平確実な賦課徴収実現のため、収税官吏による実効性ある検査制度を認めたものであるところ、納税義務者による申告納税制度を前提にしつつ、真の所得金額を捕捉しようとする税務調査の性質上、検査の範囲、内容等は、具体的事案に応じた個別的考慮が必要となることは明らかである。したがって、いかなる範囲程度にわたり調査を行うかといった具体的な調査手法及び内容は、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択、裁量に委ねられるものと解される。

(二) これを本件についてみるに、前記第三の一1において認定したとおり、原告による本件各係争年分の確定申告の内容に疑問が存したことは明らかであり、本件においては、調査の必要があったと認められる。そして、前記第三の一2(一)ないし(六)の各事実によると、原告は、その所得計算の根拠とする本件帳簿について適正な記帳をせず、領収書等の原始資料も保管しておらず、本件調査にも協力しようとしなかったことは明らかであるから、被告側が、原告の所得額を把握するため、その取引金融機関や仕入先に反面調査を行ったことは、何ら、合理的裁量を逸脱するものではない。なお、原告のような個人事業主の場合、金融機関に家族名義での取引口座を持つことは世上一般に見られることであるから、仲野係官が京子や原告の息子名義の銀行取引内容を確認したことも違法とは言えない。また、前掲各証拠によると、仲野係官が原告の勤め先に身分を名乗って電話をしたことは認められるが、既述のように、原告が本件調査に非協力的であって、連絡が取りにくい状況であったことに照らすと、このことをもって直ちに右架電行為が「社会通念上相当な限度」にとどまらない行為であったということはできない。本件において、原告は、仲野係官が京子の信頼を裏切った旨主張するが、原告が仲野係官のいかなる行動を問題とするのか主張自体も不明確であるのみならず、本件全証拠によっても、そのような事実は認めることができない。

2  本件推計課税の必要性について

(一) 推計課税は、経験則や統計値等の適用により、所得を間接的に推認して課税する方式であり、そこで認定された所得と真実の所得との間には誤差を免れ得ないものである。したがって、推計課税は、帳簿書類が存在しない場合、帳簿書類の記載が不正確ないし不当である場合、又は、帳簿や資料が存在するにもかかわらず納税者がその提示を拒む場合等であって、所得の実額による算定が不可能若しくは著しく困難な場合にのみ行われるべきものである。

(二) 本件においては、前記第三の一2(一)ないし(四)記載の各事実に照らし、本件帳簿の記載が信用できない不正確なものであったことは明らかであり、かつ、前示のとおり、原告は、領収書等の原始資料も保管しておらず、本件調査にも非協力的であったのであるから、本件各課税処分時において、原告の所得を実額で把握することが不可能であったことは明らかである。したがって、本件においては、推計の必要性があったものと認められる。

三  本件推計の合理性について

本件において、原告は、推計の基礎となった本件各係争年分における各仕入金額が、少なくとも前記第三の一2(九)(1) ないし(3) の各「売上原価」記載の額分は存すること及び本件各係争年分の給与所得金額が、同項(1) ないし(3) の各イ記載の額であることについては明らかに争わない。そして、被告が行った推計の手法内容は前記第三の一2(九)及び(一〇)記載のとおりであり、これらに照らすと、本件推計は合理的なものと認められる。

原告は、抽出された同業者の営業収入に約四倍の偏差があることをもって、抽出には合理性がない旨主張する。しかし、本件においては、抽出すべき同業者の売上金額(営業収入)について、前示のとおり、いわゆる倍半基準(原告の売上金額の〇・五倍以上かつ二倍以下の額の範囲に売上金額を有する同業者を選出するもの)が使用されており、これは、事業規模が推計の対象となる納税者(原告)と著しく異ならない範囲にある同業者を抽出する基準として合理性が認められるものである。また、原告は、佐原市の統計によれば原告の営業する新島地区は、一人当たりの「販売額」が佐原市の平均の半分であるから、被告が佐原市全体から同業者を抽出したことは不合理である旨主張する。しかし、そもそも原告が主張する統計は、佐原市の「小売業」全体に関するものであり、原告が従事する「食料品小売業」に関するものとは認められないから、必ずしも、原告の主張する事情が本件において妥当するとは認め難い。加えて、前掲各証拠によると、原告の居住地周辺には、ショッピングセンター「アイモア」、スーパー等が進出していることが認められ、これに照らすと、新島地区周辺が食料品等一般日用品について他地域よりも購買力が著しく劣っていると断定することはできない。

そもそも、本件推計は、同業者の平均値を用いて行われているのであり、平均化の過程が存する以上、業種及び業態、事業所の近接性、事業規模等の基本的な要因において比準同業者の抽出が合理的であれば、比準同業者間に通常存在する程度の個別的な条件の違いは、それが推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでないかぎり、捨象されるものというべきである。そして、本件において、同業者の抽出過程が合理的であると認められることは、前記第三の一2(九)及び(一〇)に照らし、明らかである。

なお、原告は、本件推計の結果認められた売上金額が、原告の申告を下回る旨主張するが、前記第三の一2(七)記載のとおり、被告は本件帳簿から認められた原告の仕入先に反面調査を行って、推計の基礎となった仕入金額を算出したのであり、前掲各証拠によると、その際、取引がない、あるいは資料が残っていないという回答もあったというのであるから、本件推計の結果が原告の確定申告の売上金額を下回ることになったとしても、不合理はない。

四  本件課税処分の適法性について

以上によると、原告の本件各係争年分の総所得金額は、平成五年分が三〇八万二五〇七円、平成六年分が二九三万八二二一円、平成七年分が三二六万二三一二円と推計され、したがって、本件各係争年分の総所得金額の金額について、右各金額を下回る額、すなわち、平成五年分を二九一万四二五五円、平成六年分を二六六万七三九一円、平成七年分を三〇四万〇〇二七円と更正した本件各係争年分の所得税の更正処分及びそれを前提とする平成五年及び平成六年の本件各過少申告加算税賦課決定処分には何ら違法はない。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小宮山茂樹 裁判官 弓場佳多子 裁判官 大濱寿美)

別表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!